「インテリアスタイリング」


「インテリアスタイリング」という仕事をご存知ですか?

一昔前の建築・インテリア雑誌では、物ひとつ置いていない生活感が全くない写真を使うことがほとんどでした。

しかし、最近の雑誌の写真を思い出していただければお分かりかと思いますが、テーブルの上に食器や花、棚には本や置物、壁の写真や絵画、ラグやカーテンなどさまざまな物たちが時に華やかに、時には大げさに飾ってある空間の写真が掲載されています。
それらの写真は実際の施主の生活そのものであることは少なく、インテリアスタイリストと呼ばれる人が部屋の雰囲気や雑誌の特集テーマに合わせて家具や調度品を集めて美しく並べて撮った写真なのです。

雑誌のケースは大げさとしても、普段の生活でも自分たちのライフスタイルに合わせ、季節感を伴って部屋を飾ることは大切なことだと思います。

キッチンでもそうです。
いくらかっこいいキッチンが完成しても、そこで使う道具が格好悪いものだったらせっかくのキッチンも魅力が半減してしまいます。
道具だけではなくペンダントライトや飾り棚、コンセントやスイッチなどそこに存在するすべてのモノとコトに気を使いたいものです。

キッチンという場所は、近代の住生活の中で3つの段階に分かれます。
第一世代は「料理する場所としてのキッチン」でクローズドキッチンだったり、団地のDKの世代です。
単純な機能にのみ特化した空間です。

第二世代は「コミュニケーションキッチン」と呼ばれ、オープンキッチンが主流になりはじめた時代です。
家族間のコミュニケーションを重視するためにキッチンがリビングやダイニングに出て来ました。
その2世代を経て、現代のキッチンは生活の場、自己表現の場としてキッチンを捉えています。
私はそれを「ライフスタイルキッチン」と呼んでいます。
つまり、重要なことは自分らしい生活を表現することなのです。
それをインテリアスタイリングに因んで「キッチンスタイリング」と呼ぶことにします。

「キッチンスタイリング」ではいろいろな視点でキッチンを含む空間を捉えるようにします。
その手法はいくつもありますが、ここで3つの提案をします。

キッチンスタイリング

1.「風景を作る」こと

オーダーオリジナルキッチン025築100年の家
イマドキのキッチンはほとんどオープンキッチンです。ですから、生活空間の中にキッチンを存在させなければなりません。
キッチンから見えるもの、キッチンの外からキッチンを見ること、そこにあるもの、隠すものと飾るもの、素材、色、ボリュームなどを整えます。
キッチングッズだけでなく、調理家電などのブランドやデザインなどをよく知ることが重要になります。
もちろんそれらは設計者やコーディネーターの仕事でもありますが、最終的には住まい手自らの手によるものでなければなりません。そこで次のテーマが生まれます。

2.「余地を残す」こと


これは住まい手自らが手を加える場所を作っておくということです。
ちょっとした飾り棚や絵をかけたくなる壁などを意識的に作ります。そうすると住まい手は生活を楽しむことができます。
また海外旅行で素敵な置物を購入する時に「あそこに置くならこんなのがいいなぁ」と意識して購入するようになります。

その「意識する」ということが重要で、どんどん住まい手のセンスが上がっていきます。そしてどんどん素敵な生活になっていきます。
余地を作って飾ることに意識をやると当然のように照明が気になります。

3.「照明を有効に使う」こと

オーダーキッチン014輝く、ペニンシュラキッチン
キッチンに限らず、照明計画はインテリアでかなり重要な要素のひとつです。
キッチンという場所は電気・ガス・水道・火を使う、包丁を使う、生物を扱うといった非常に危険な場所ですから、明るくなければなりません。
昔のように、部屋の天井の真ん中にペタンとシーリングライトを付けておしまい!という照明計画は今はやりません。
最近の流れは「必要なところが必要なだけ明るく」「意図的に明るさの濃淡をつける」という方法をとります。

そこでキッチンはワークトップのみをかなり明るくし、通路部分はそこそこ明るくなるように計画します。
リビングダイニングとの流れも無視することはできません。間接照明を上手に利用したり、ダウンライトも広角タイプと狭角タイプを使い分けたり、雰囲気を合わせたペンダントライトを使ってアクセントにしたりします。
色温度(光の色)を揃えるだけでなく、光源の見え方をも気にするようにしましょう。
最近では調光スイッチを利用して、光の量を調節することで、様々な時間帯の空間の使い方に対応できるようにすることも多くなりました。

まだまだ方法はありますが、だいじなことは住まい手自らが意識するということです。
我々キッチンマイスターもそこのところは気にしながらキッチンのデザインを考えています。

いっしょに素敵なキッチンを作り上げていきましょう!!

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その類稀なるデザインセンスで「キッチンを武器にした提案」をし、数々の施主をがっちり魅了し続けているインテリアデザイナー和田氏。 2009年度グッドデザイン賞(株式会社INAXと共同)や、住まいのインテリアコーディネーションコンテスト2013(2013 経済産業大臣賞)その他受賞歴多数。「キッチンをつくる―KITCHENING」ほか著書も多数。